澄川龍一

「NEO FANTASIA」アルバムレビュー(総括)

2013年の茅原実里は、シンガーとして大きな進化を遂げた年だった。新たなメンバーを迎えたCMB=バック・バンドとのツアーや大会場ライブを実現し、ライブ・アクトとして劇的な成長を見せたのが昨年のこと。昨年末にはCrustcea『Unification 3』にシンガーとして参加し、今年に入ってからは念願であったCrustaceaとのコンサートを実現した彼女だったが、それを経て今年にリリースされた2枚のシングルでの歌唱はこれまでと明らかに異なる、より自然に歌に入り込むアプローチが聴かれた。そんな歌により真摯に寄り添ってきた2013年を総括するのが本作『NEO FANTASIA』なのだ。茅原曰く「テーマパークのようなアルバム」とのことだが、こうしたテーマが最大限に発揮されたのは彼女のイマジネーションを具現化した歌詞/サウンド、それと有機的に溶け合う茅原実里のボーカリゼーションがあってこそ。ビッグバンドからハードなデジタル・サウンド、ロック、フォーク、そして壮大なオーケストレーション……と、それこそ多彩なアトラクションのように、欲張りなまでにさまざまな世界を網羅した心躍るような夢の舞台。そこではシンガーとして、そしてもちろんエンターテイナーとしてさらなる進化を遂げた、“最高の茅原実里”を聴くことができる。

01: The immortal kingdom

『NEO FANTASIA』という壮大なテーマパークのエントランス・ゲートの役割を持つ、イントロダクション的な一曲。これまであったアルバムのイントロ曲のなかでもっとも開かれた印象を持つ、ファンタジックな世界へと誘うオーケストレーション。そこで聴かれる茅原実里の歌唱は夢見がちな明るさと同時にガイドとしての頼もしさもあり、ワクワクするような世界の入口で聴くには打ってつけだ。さて、ここからどのアトラクションに向かおうか……。

02: TREASURE WORLD

ゲートを潜れば、そこは別世界。「The immortal kingdom」から地続きで聴かれるのは、自身初であろうビッグ・バンド・サウンド。それを基調に、『NEO FANTASIA』な世界観を一曲に凝縮したかのような、ハレの舞台が展開されていく。キラキラとしたテーマパークをぐるりと急ぎ足で巡るように、ホーンやコーラスが賑やかでスリリングに展開されていくなか、その“楽しさ”を集めた茅原のボーカルが素晴らしい。また彼女のペンによる、過去の作品タイトルが散りばめられた歌詞もまたテーマパーク的でグッド!

03: SELF PRODUCER

昨年10月にリリースされたシングル曲であり、パンキッシュなアプローチで茅原実里の新たなイメージを印象づけた一曲だ。盟友・菊田大介(Elements Garden)によるサウンドはアッパーなバンド・サウンドにストリングスやホーンといった、とびきり底抜けに明るいポップネスを持ちつつ、どこか上品さがあるのがさすがなところ。ここで歌われるのはいわゆる女子の背中を押す応援歌的なもので、茅原も女子的キュートさを見せつつも、どこか頼りがいのある包容力が感じられる。ノビノビとした歌声は、シンガーとしての彼女の進化が始まっていたことを示すようだ。

04: TOON→GO→ROUND!

宇宙を飛び回るジェットコースターを思わせる、前作『D-Formation』に続いてI’veの高瀬一矢と接近を果たしたアップリフティングなデジタル・ナンバー。『NEO FANTASIA』仕様ということもあってか、茅原実里にとって未知との遭遇であった前作の「嘘ツキParADox」よりキャッチーさは増し、茅原のボーカルも適度な温度を保ったまま躍動する。とはいえ実にI’ve的、実に高瀬一矢的コズミックなグルーヴを持つトラックは健在なだけに、それが茅原実里的な爽快感溢れるポップスに昇華されているのはまた新鮮に聴こえる。

05: 1st STORY

ストレートなバンド・サウンドと、それにも増したまっすぐなメッセージが胸を打つロッキンな一曲。宮崎 誠らしい爽やかで疾走感のあるメロディラインを心地良く歌う茅原のポジティブな魅力が存分に打ち出されているのだけど、またシンプルなサウンドのなかで茅原が書いた歌詞から見える、前を見据えた輝きが特に際立つ。それもあって全体的にアッパーではあるけど、肩肘の張らない歌唱が聴かれる。さまざまなステージでファンと喜びを共有した彼女の、現在のピュアな気持ちがしっかりと封じ込められているようだ。

06: endless voyage

茅原が主題歌を担当し、またホライゾン・アリアダスト役として出演したアニメ『境界線上のホライゾン』にてキャラクター・ソングを多数手掛けた音楽集団Arte Refactの矢鴇つかさによるダンス・ナンバー。グイグイと切れ込むビートとシンセのウワモノがアグレッションと凛々しさも感じさせる歌唱は、『D-Formation』以前というか、我々がよく知る茅原実里の姿だ。こうした外しのないシリアスな彼女の魅力もしっかりとフォローしつつ、それが中盤で鳴らされるというところもこのアルバムの構成における見事なところ。

07: 真白き城の物語

アルバム前半の終わりを告げる物悲しいミディアム。美しいトラッド風味のメロディを生んだのは、かつてI’veで数々の楽曲を生んだ島みやえい子。そして季節の移ろいをあまりに美しく綴った畑 亜貴による歌詞世界、命の芽吹きを表現するようなリッチなストリングスの調べ……と、物語として完璧な仕上がりだ。そしてその語り部としての茅原の歌唱がまた素晴らしく、物語における感情の揺らぎを丁寧に、かつ自然に表現している。シンガーとしての彼女の表情を存分に堪能できる一曲なのだ。

08: Celestial Diva

『NEO FANTASIA』後半の幕開けはファンタジックな世界への誘いだ。Elements Garden総帥・上松範康の作曲、菊田の編曲というあまりに贅沢なサウンド陣による、シンフォニックで疾走感溢れる、いわゆる直球なまでにElements Gardenといえる音世界。そして今年の“Animelo Summer Live”における共演も記憶に新しい宝野アリカ(ALI PROJECT)によるリリカルな歌詞も含めて、崇高なまでの美しさをたたえている。そうした世界に足を踏み入れた茅原もまた、物語の主人公たる凛々しくもエレガントな歌唱を聴かせている。

09: Lonely Doll

テーマパーク的な本作においてこの曲は、古くから場内の片隅にひっそりとたたずむ小屋のよう……と、思わず情景が浮かぶ、茅原の作詞・作曲による悲しい響きの一曲。彼女の詞曲における寓話的なアプローチというのも新鮮な驚きがあるが、その歌世界の見事さはさらなる驚きと感動をもたらした。また童謡的なメロディを歌う彼女の声も、物語の主人公である人形のようなイノセンスが込められ、その背景で鳴る菊谷知樹によるアコースティック・ギターの調べも相まって、このうえない哀愁を誘う。

10: この世界は僕らを待っていた

大空と海原の間をすり抜ける鳥のように、雄大だけどしなかやかに響いていく歌――。2013年最初のシングルとなったこの曲で聴かれた歌唱は、茅原実里というシンガーがあらたな局面に向かったことを告げた。未来という大いなる冒険にワクワクさせるようなサウンドと歌詞に躍動する一方で、それらを包み込むような大らかさもあり穏やかさもある、そんな機微がここでは聴かれる。ナチュラルに自由な歌を手に入れ、あらたなフェーズへ進もうと宣言するかのような、爽やかで感動的な一曲なのだ。

11: ZONE//ALONE

前アルバム『D-Formation』収録の「TERMINATED」に続くアニメ『境界線上のホライゾン』主題歌であり、「Paradise Lost」「TERMINATED」らと共にライブ終盤の要となる茅原実里の代表曲。こうした劇的な展開美を見せる“茅原実里らしい”楽曲において、この曲はその頂点ともいえるハイ・レベルなアプローチを聴かせている。Aメロ、Bメロとめまぐるしく展開する切迫した構成に、茅原の歌唱が真っ向からぶつかるかのようで、いわば茅原×菊田におけるひとつの到達点ともいえる。またそんななか絶望を越えようと力強く歌う畑の歌詞も絶品。昨年、茅原がネクスト・ゾーンに向かったことを告げた歴史的一曲なのだ。

12: 境界の彼方

茅原実里の最新シングルにして、彼女の音楽においてまたあらたな一歩を踏んだことを示す一曲。ピアノやストリングスを交えたダイナミックなロック・サウンドのなか、アグレッションとは別ベクトルにあるようなセンティメンタルな雰囲気を感じさせるメロディにキュンとなる。茅原の声も時折聴かれるファルセットも含めてより洗練さを増した印象で、そこで歌われる“痛み”から“希望”へと繋がれる言葉たちは、今までより確かな手触りで耳に入り込む。これもまた充実の2013年を象徴する一曲だ。

13: NEO FANTASIA

アルバムのクライマックスに用意された表題曲は、多くのアニメ作品での音楽を手掛ける現在もっとも旬なクリエイター、澤野弘之が作曲・編曲で参加。ファナティックなストリングスから幕を開けるこの曲、ロックとオーケストレーションが融合した澤野らしいサウンドを、茅原による地に足をつけてまっすぐ前を見据えた力強い歌唱が包み込んだ感動的な仕上がりだ。そんなカオスから輝かしい未来へ向かうような曲構成もそうだが、畑による歌詞も、偶然にも前曲でも歌われた“希望”や“未来”が、ここではもっと大きく強固に示されている。本作を経て、茅原がまた“NEO AREA”へと向かっていることをシンプルに、しかしもっとも雄弁に語っているようだ。

14: Neverending Dream

楽しく、重厚で、そして大いなる感動に満ち溢れた『NEO FANTASIA』の世界もいよいよフィナーレ。Elements Gardenのあらたな逸材、Evan Callによる穏やかなオーケストラによるアウトロは、ハレの高揚感を冷ますようでもあり、本作が終わってしまういくばくかのうら寂しさもある。そして曲の終盤、例えばゲートを潜って現実の世界に戻る瞬間、ふとうしろを振り向くと聴こえる、「会いに来てね 待ってるよ 会いに行くよ 待っててね」というみのりんからのメッセージ……なんとも粋な演出じゃないか。そう、次は『NEO FANTASIA』の続きに僕らが会いに行く番なのだ。

クロスレビュアー

>> 澄川龍一
アニメ音楽誌「リスアニ!」副編集長。編集や執筆のほか、イベント司会など行う。
>> 冨田明宏
音楽評論家、ラジオMC。アニメ誌や音楽誌での執筆や連載、『リスアニ!』の 企画/メイン・ライティングを担当。
>> 西原史顕
アニメ音楽誌「リスアニ!」編集長。同誌からマルチ展開したLIVEやWEB、TV番 組などの制作にも携わる。
>> 吉田尚記
『ミュ~コミ+プラス』AM1242(月)~(木)24:00-24:53
パーソナリティ、第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞受賞。
>> 齋藤光二
アニメロサマーライブ・ジェネラルプロデューサー。通称「齋藤P」。