それこそJ-POPど真ん中でも通用しそうなキュートさと、聴く者の痛みや迷いを「その先」へ導く強さを持ったきみコ(Vo・G)の歌。ハード・エッジな衝撃度と透明感を兼ね備えた、洋楽ギター・ロック直系のサウンドスケープ。そして、度重なる全国ツアーで鍛え上げたパンク・バンド顔負けのタフネス……一見まるでベクトルの異なるそれらの要素を、nano.RIPEという4枚のインディー・ミニアルバムに結晶させ、多くのリスナーを魅了してきた。そしてー9月22日、シングル『パトリシア』で、nano.RIPEはついにメジャー・デビューを果たす。
「大学時代はメロコアとかパンクをやってて、でも基本的には洋楽好き」(shinn)、「メタルとかジャズとかいろんな音楽に触れすぎて『好きな音楽は?』って訊かれてもわからなかった」(アベ)、「ユニコーンが好き」(ササキ)、「スピッツ!」(きみコ)と多種多様なルーツを語る4人。しかし、「ポジティヴとネガティヴの狭間で揺れ動く僕らの日常に、明日へのリアルな推進力を与える」という途方もない命題に向き合った時、4人の音は揺るぎない「うた」として僕らの胸に届く。
雄大なスケールとセンチメンタルの結晶のようなメロディを持つ"パトリシア"。ポップかつアグレッシヴに「別れを受け入れようとする葛藤」を歌う"水性キャスト"。ネガティヴな状況でも自らの背中を押して前進する決意の歌="夢路"。彼らの楽曲には、「明日はきっとうまくいく」「愛があれば大丈夫」的な無責任な激励メッセージもなければアッパーなギミックもない。ただ、現実を前に煩悶したり苦悩したりしながら、それでも前に進もうとする自分自身を、そのままメロディと楽曲に焼き込んでいくだけだ。そして、だからこそ彼らの音楽は、聴き手を選ばず胸の奥の奥まで水のように自然に染み渡っていく浸透力を持ち得ているのだ。
「ネガティヴな部分は置いておいてポジティヴなところだけを歌う、っていうのはできないですね。自分にとって嘘になってしまうし、自分が前向きじゃない時はどうしても否定的に聞こえてしまったりするんで。『どんな時でも聴ける歌であったらいいなあ』って。本当に自由に捉えてほしいな、っていうのはありますね」(きみコ)
ロックに甘えず、J-POPに媚びず、ひたすら音楽を鍛え磨き上げることに全身全霊を傾け続けてきたnano.RIPE。あらゆる音楽が出尽くしたと言われる2010年代にさらなる音楽のマジックを提示するような凛とした音。ぜひとも真正面から向き合ってみてほしい。切に願う。
ライター 高橋智樹