多摩表層部、青雷亭では、朝食の持ち帰り待ちのジャージ女教師が、授業で使うプリントの原盤書きを行っていた。しかし、表示枠の半ばまでを文字で埋めた彼女は、椅子を限界まで傾けて、
「あー……、ちょっと一般人の模擬解答みたいなの欲しいんですけど、店主さん、出来ます?」
店の奥に問いかけると、調理台の上で小麦粉を練っていた女店主が振り向く。彼女は手捌きの見えない速度でパン種の練り込みを行いつつ、
「あたしがIZUMOで授業受けていた頃とは要項違うっしょ。 辞書的な内容だと、そこのP-01sが最近読書ブームで頑張ってるから、行けると思うよ」
「P-01s……」
と、ジャージ女が椅子を戻してカウンターを見ると、そこにはエプロン姿の自動人形が立っている。彼女は女教師の方に右の親指を立て、銀の髪を前に揺らして頷くと、
「一体何でしょうか。P-01s、努力はしますが尽力は致しませんが」
「毎回思うけどいい性格してるわ……」
ジャージ女が口を横に開いていると、ドアベルが鳴って、人影が三人分入ってきた。極東の女子制服姿の面々を見た女教師が、あれ、と声を挙げ、
「どうしたの三人して。今日の御高説の事前調査?」
「え? いえ、違いますよ先生。三年生の卒業祭で、私達、送る側ですから、雅楽バンドのまとめ役になってまして……」
「フフ、そうよ先生、私達の”きみとあさまで”、見せ場のお祭りだものね。見に来る?」
「Jud.、行く行く、って先生どうせ現場にいるわよ。まあ、客席にはいないだろうけど」
それも残念ですわね、と銀の髪を大きく後ろに巻いた少女が言う。彼女は鼻を動かし、カウンターの方を見て、
「……今日は極厚ベーコンエピが出来てますのね。いただいていきますわ。……って、P-01s? 本を積んで何の準備してますの?」
「Jud.、正純様への返却と、そちら、これから出されるゴコウセツの準備です」
「あの、先生、無関係な一般人に処刑はどうかと思うんですけど……」
「流石に先生も一般人を吊さないわよー」
と、ジャージ教師は頭の後ろで腕を組み、椅子を傾ける。
そして、
「とりあえず、うちの連中の出来を見てから、一般人見解を聞いてみようかな。──いい? 各国に預けられた聖譜顕装。 ”七つの枢要徳”を冠する神格武装だけど、それぞれの徳についての説明って出来る?」
はあ? と女子三人が口を横に開く。そして、黒髪の長身が、えーと、と前置きし、
「ちょっと、他の皆にも訊いていいですか? ですね?」
・あさま:『そういうわけ試験運用中の実況中心で作戦会議です。七つの枢要徳って、ぶっちゃけ私は神道なのでよくは知らないんですけど。喜美とミトは?』
・賢姉様:『フフフ馬鹿ね浅間! そんなことも知らないなんて人間失格よ! 七つの枢要徳なんて簡単じゃない! ”飲む・打つ・買う・風呂・メシ・寝る” ──やだ一個足りないわ! ねえ! 返して! 私の徳、返して!』
・あさま:『一個じゃなくて全部紛失してるから頑張って探して下さい。ええと、ミト──、ってすいません、調理場の方じゃなくて、視線、視線こっち下さあーい』
・銀 狼:『あ、御免なさい。お肉の焼ける匂いが、その、キュンって、──唾液が』
・未熟者:『横から言うのも何だけど、君ら何で使えない時は本気で使えないんだい? こういう時は、ほら、誰に頼れば良いか、解るだろ? フ、そう、神格武装などの設定は──』
・あさま:『あのー、アデーレ、知ってます?』
・未熟者:『豪快に無視したね!? したよね!?』
・貧従士:『自覚があるなら喋って良いですよね!? ──ともあれJud.です! 今、そっちにパンの耳貰いに行きますんで──!』
・● 画:『……何だか犬の群がBLUETHUNDERの方に行くのが上から見えるんだけど、何?』
・金マル:『Jud.、──アデーレがアサマチ達と処刑されに行くんだって!』
・あさま:『決まってない! 決まってないですよ!! まだ堪える時間帯です!』
・煙草女:『……堪えるくらいなら帰ったらどうさね』
では、と、黒髪の少女が一息を入れる。椅子から立ち上がり、幾つか開いた表示枠と、集まった皆に向かって、
「とりあえず枢要徳ですが、これは七つの大罪とは別のもので、Tsirhc由来の”信仰・希望・慈愛”の三徳に、西洋における古来からの四規範”賢明・正義・勇気・節制”を加えたものです。
グループ内での順番はまちまちですが、現在では聖譜と聖譜顕装の対応国家も含めて、次のようになっています」
:第一:「信仰」:K.P.A.Italia
:第二:「希望」:上越露西亜
:第三:「慈愛」:M.H.R.R.
:第四:「賢明」:六護式仏蘭西
:第五:「正義」:英国
:第六:「勇気」:P.A.Oda
:第七:「節制」:三征西班牙
「──で、とりあえずこれからちょっと、誰がどれの説明をやるか、皆で押しつけ合うので、ちょっと待って下さいね?」
Jud.、とカウンターにいるP-01sが頷いた。