「うーし、じゃあ”節制”についてはあたし、第六特務の直政がするさね。ホントだったらハイディあたりがやるのいいんだろうけどさ」
「商人が徳を語ると、それ守らなきゃいけなくなるしー」
とハイディが笑顔で言うのを浅間は見る。ここで逮捕しておくのがいいんですかね、とも思うが、それはそれとして、
「”節制”って、節約のこと? マサ」
「ま、それもあるさね。でも、本音のトコロだとちょいとニュアンスが違うさ。
何でもケチるのと違って、”ほどよくやっとけ”ってトコロさね」
「たとえば?」
「無駄を作るのはいけない。でも、無駄を無くそうとして削りすぎても駄目さ」
喜美が真顔で、胸のあたりの虚空を縦に削るジェスチャーを見せるが、浅間は無視した。
そして直政が、やや考えて、
「その逆で、何かを為す時に小さすぎたり、少なすぎてもいけない。しかし、やはり、やり過ぎてもいけないって事でもあるさね」
喜美が真顔で、胸のあたりの虚空に球体を作るジェスチャーを見せ、こちらを両手で指さしたが、浅間は無視した。
「つまり、中道で行けってことですね」
そうですね、と言ったのはアデーレだ。彼女はカウンター脇の重量計を指さし、
「節制って、つまりバランスがとれてるっていう事なんです。極東語だと節約の意味が強く感じられますが、”節することを制御する”から節制って考えると、解りやすいですね」
「機関部でも節制は大事でさ。仕事をサボってるとろくなことにならない一方、仕事しすぎると疲れて精度が下がっていってね。やっぱほどほどが基本的にはいいって事さ。 これはまあ、金とか食事でも同じさね。足りなかったらいけないし、得すぎてもろくなことにならんってさ」
ハイディが窓の外を眺めながら耳を塞いでいるのを浅間は見たが、とりあえずそっとしておくことにした。そして直政が、軽い笑みを口にだけ作って言う。
「足りるを知る。そういうことさね。──これは」