成る程ねえ、とジャージ姿の女教師が、椅子を傾け天井を見る。
「やっぱメジャーネタは結構、答えられちゃうもんか。……だったら、やっぱりコレをネタに作文でもやって貰った方がいいかしら」
では、とカウンターのP-01sが頷いた。
「一般人としての、”七つの枢要徳”の小咄と、そう行けばいいのですね?」
「いや、別に小咄でなくても……」
まあまあ、とP-01sが両手で制する。
「ではまあ、ちょっとした小咄など、P-01s、始めて見ましょう」
『自動人形P-01s・
七つの枢要徳の第四である”賢明”について曰く』
「──さて、常に迫られる賢明という徳の興味深さは、賢明かどうかを判断するのは何かという基準が無いという事です。一体何が賢明の是非を判断の時に分けるのか。後悔の有無は未来にしか掴めないとするならば、賢明とは予言者のスキルに堕落します。が、どうでしょうか。人は、賢明であると自分を決めて諦めるより、賢明であろうと、後悔を悟り、恐れぬことで、Terminateの無い無限に挑戦していくのでは、と判断できますね」
Terminate:終わる、終わらせる、有限の~
※こちらの枢要徳はTERMINATED、「ソフマップ」さんの店舗特典となっております。
※特典はなくなり次第、終了になります。ご了承ください。
※特典の有無についての詳細は各店舗様にご確認お願いします。
「──とまあ、そんなところで如何でしょうか」
P-01sの小咄を聞いた皆が、小さな拍手をする中、ジャージ姿の女教師が傾けた椅子の上で大きく仰け反る。
「これだけ答えられるなら、今日のテストは内容変えて実技訓練にでもしよっかなー」
「せ、先生! ちょっとそれ酷いですよ! そんなに誰か処刑したいんですか!?」
「違うわよ-、先生なるべく場が盛り上がった方がいいと思ってるだけだから」
「同じだ!!」
皆がツッコミを入れた中、喜美が軽く手を挙げて、
「でも先生、七つの枢要徳って、結局、何なの? 社会規範とか、昔のルールが定まってない時代に皆で守りましょうね的な束縛プレイなのは解るんだけど」
「あー、先生も昔に師匠からちょっと聞いた感じなんだけどね。これってつまりは、余計なことしない、でも、やることはちゃんとやろうって事なのよね。で、それって……」
教師が、椅子を戻した。腕を組み、皆に対して言う事は、
「これを守ってれば、公的には、──過不足なく、社会は回るわ。じゃあ、私的には?」
問われ、皆が顔を見合わせる。喜美が浅間の腰を後ろから抱いて、
「私的に余計なことしない! やることはやる! 解ってる!? ”こ”から始まって”り”で終わる言葉よ!」
「な、何言ってるんですか! またそういうエロ単語を……!」
「あら? 私、単に”理(ルビ:ことわり)”って言おうとしたのに」
浅間が握り拳を振り上げ、馬鹿姉が逃げた。
それらに苦笑する中で、表示枠から鈴が言う。
『私達、も、……ずっと、回、る?』
「そうね。そういうこと。──つまり、これらを守っていれば、自分の中と外に負担やストレスなく、気楽に、辛いことなく生きていけるということなの。そして社会も回ってくれるとするならば──」
P-01sが、教師の言葉を受け継いだ。
「──そこには、無限が生じるのですね。たとえ死んだとしても、そのときには”信仰”が救ってくれるし、空に昇ることは新しい希望を見上げるということですから」
「死ぬとこまで行かなくていいけどね。でも、この七徳が紡ぎ出すのは、”無限”なの。
七つのことを守れば、人は容易く自分を無限に出来る。よく出来たものね。
意外と世界は、人に対してチョロいのかもしれないわ」
さてまあ、と女教師は、また椅子を傾け、天井を見上げた。笑みの口を開き、
「やっぱ実技行こうか。そろそろ春休みになるし、そうしたら浅間やハイディなんかは上位の契約試験とか受けるんでしょ? その際の指針となるように、ちょっと先生、本気でやってあげようかな」
ええっ、と皆が引きかけたが、教師は気にしない。店主が持ち帰りのセットを紙袋に入れて持ってくるのを受け取りながら、こう言った。
「いいじゃない。春休みが明けたら三年。──この世界を存続できるかどうかは、君達に掛かってるのよ?」