『Contact』アルバムレビュー(総括)
本編ラスト“truth gift”の幕引きのようなストリングスがスピーカーから静かに消えていく。それからしばらく経ってもなお、震えが止まらない。シーンの性質上、楽曲単位で語られがちだったアニメ/声優音楽において、これほどアルバムとしての高い完成度を叩きつけられたのはある種ショックだったのだ。硬軟自在に、幾重にも張り巡らされたサウンド、そこに一本芯の通ったストリングスというファクター……と、サウンドとしても全編に渡ってこの上ないクォリティーに仕上がっている。そして畑亜貴、こだまさおりが紡ぐ歌詞を触媒にして怒り、哀しみ、喜び、そして母性すら感じさせるさまざまな感情を内在させ、それを楽曲ごとに放出する茅原のヴォーカルは、冷たいデジタルなサウンドを黄金に換える。つまりこれは、〈温かい血の通ったトランス〉だ。今後シーンは確実に〈『Contact』以降〉として語られるであろうし、その中心に必ずや茅原実里は君臨し続けるであろう。ぼくらはとてつもないモンスター・アルバムと出逢ってしまった。しかしお楽しみは、これからなのだ。
1.Contact
いよいよ始まった!とざわざわした期待を煽るかのような壮大かつゴージャスなイントロダクション的タイトル・トラックだ。幾重にも張り巡らされたコーラスワークやピンと張り詰めたサウンドにいやがおうにも期待は高まり、感情を押さえ込んだ彼女のヴォーカルにもゾクゾクさせられる。
2.詩人の旅
“Contact”の余韻に浸ることすらを許さないかのように矢継ぎ早に繰り出されるこの曲を耳にした時点で、このアルバムの成功を確信した。性急なBPMとトランシーなサウンドと喉笛を切り裂くようなストリングスに脳を蹂躙されたあとに訪れる、力強い雄叫びのごとき情感に満ち溢れたサビのヴォーカル・メロディー。まさにトランス+ストリングスという〈茅原実里スタイル〉を究極に突き詰めた渾身の名曲だ。
3.ふたりのリフレクション
サビの飛翔するメロディーがとにかく素晴らしいこの曲。タイトルどおりキラキラしたシンセが反響して織り成される、彼女の楽曲にしては比較的シンプルなトランス・サウンドとなったことで、ウキウキするような軽快に跳ねるヴォーカルという彼女のポップネスを再確認できる。
4.純白サンクチュアリィ
長門有希キャラソン“雪、無音、窓辺にて”で感じた予感が確信へと変わった歌手活動再開第1弾。Elements Gardenのストリングス+トランスというスタイルがこれほどまでに高いステージで融合されたことに驚いたのを覚えている。決して遅くはないBPMのなかでも、噛み締めるように丁寧に言葉を広い歌い上げる彼女のヴォーカルが、この凍てついた楽曲に確かなぬくもりを与えている。
5.Dears 〜ゆるやかな奇跡〜
アグレッシヴに攻め尽くした前半から一転して、大久保薫の滑らかなストリングスを堪能することができるミディアム・ナンバー。活動再開後の茅原の根底に流れる、感謝と喜びに満ちたあたたかい歌声が響き渡るサビに癒される。こういう丁寧に歌い上げる彼女のヴォーカルはもっと多くの場所で聴かれるべきだ。
6.Cynthia
小気味良いシンセというスパイスがピリリと効いたアッパーな、これぞ大久保薫!と膝を叩いてしまうダンス・チューン。大きくかつ素早く振れるメロディーにも振り放されることなくしっかりと対応しているヴォーカルもまた見事。
7.sleeping terror
畑亜貴の真骨頂ともいえる幻想的な歌詞を、儚げでか細くなぞる声にゾクリとさせられる。トライバルですらある細かく刻まれたバスドラムがいいアクセントになっていたりと、サウンドも素晴らしく、アルバムの世界観に忠実でありながら独特のおどろおどろしさを演出している。
8.too late? not late…
繊細さのなかにある歌声の力強さが発揮された直球のトランス・ナンバー。ザクザクと刻まれるビートと伸びやかなギター・サウンドに鼓舞されるように高らかに歌い上げる勇ましさに、素直にカッコイイと思ってしまった。
9.夏を忘れたら
ユルいスライド・ギターにサンバ風なビートをごっちゃにしたラテン・ハウス。あまりにキュートなメロディーと汗ばんだ肌を通る風のような清涼感溢れるサウンドのマッチングは、まるでミント・キャンディーのよう。夏のみのりんもまたオツということ。
10.mezzo forte
Elements Garden菊田大介の真骨頂ともいえるストリングス・アレンジが骨の隋まで堪能することができる一曲。時には主旋律を奏で時にフワフワと浮遊したりする変幻自在のストリングスと、サビへと徐々に盛り上がっていくサウンドに負けないぐらいふくよかに響き渡る歌声が素晴らしい。終盤にこういう楽曲を持ってくる構成にもまたニヤリ。
11.君がくれたあの日
クライマックスを迎えるアルバム終盤に用意された、まさにハイライトだ。限界速度ギリギリまで引き上げたBPM、艶やかに散りばめられたストリングス、すべてを凍りつかせるようなシンセの調べ、息つく暇のないサビメロと、イントロからラストまですべてがパーフェクトな水準で完成された名曲だ。
12.truth gift
このアルバムで受けたあらゆる感情を優しく包み込むような、今作を締め括るに相応しいラスト・ナンバー。大いなる希望に満ち満ちた、あまりに感動的な歌詞、シンプルながら細かい丁寧なサウンドひとつひとつが見事に調和した中西亮輔によるサウンド・テクスチャー(飯塚昌明による扇情的なギター・ソロもまた名演)、そしてこみ上げる嬉しさそのままに歌う茅原の声に、こちらの頬も自然と緩む。この祝福に彩られた感激こそが最高の贈り物だ。
クロスレビュアー
>> 澄川龍一
アニソンマガジン(洋泉社)などで執筆中の音楽/アニメ・ライター。
>> 冨田明宏
80年生の音楽ライター。アニソンマガジンの企画/メイン・ライターを務める。その他執筆媒体は、CDジャーナル、bounce、クッキーシーン、アニカンR-music等など。音楽ガイドブック制作によく参加したり、BGM監修やコンピの監修も手掛けたり。
>> 仲上佳克
フリーライター。各アニメ誌・声優誌等にて幅広く活動中。アニメNewtypeチャンネル内の動画インタビュー番組gammyの必萌仕事人ではメインパーソナリティーを務める。
>> 永田寛哲
編集プロダクション・ユービック代表。アニメソング専門誌アニソンマガジン編集長。
>> 前田久
82年生。ライター。通称「前Q」。ライトノベル、アニメ、アニソンなどオタク周辺事象について広く執筆中。主な執筆媒体にオトナアニメ、アニソンマガジン(洋泉社)、まんたんブロード(毎日新聞)、ニュータイプ(角川書店)など。
>> 水上じろう
フリー編集者、ライター。B Street Band所属。千葉県市川市出身。
>> 渡邊純也
構成作家。涼宮ハルヒの憂鬱 SOS団ラジオ支部、らっきー☆ちゃんねる、らっきー☆ちゃんねる 陵桜学園放課後の机、radio minorythm etc.