澄川龍一
2013年の茅原実里は、シンガーとして大きな進化を遂げた年だった。新たなメンバーを迎えたCMB=バック・バンドとのツアーや大会場ライブを実現し、ライブ・アクトとして劇的な成長を見せたのが昨年のこと。昨年末にはCrustcea『Unification 3』にシンガーとして参加し、今年に入ってからは念願であったCrustaceaとのコンサートを実現した彼女だったが、それを経て今年にリリースされた2枚のシングルでの歌唱はこれまでと明らかに異なる、より自然に歌に入り込むアプローチが聴かれた。そんな歌により真摯に寄り添ってきた2013年を総括するのが本作『NEO FANTASIA』なのだ。茅原曰く「テーマパークのようなアルバム」とのことだが、こうしたテーマが最大限に発揮されたのは彼女のイマジネーションを具現化した歌詞/サウンド、それと有機的に溶け合う茅原実里のボーカリゼーションがあってこそ。ビッグバンドからハードなデジタル・サウンド、ロック、フォーク、そして壮大なオーケストレーション……と、それこそ多彩なアトラクションのように、欲張りなまでにさまざまな世界を網羅した心躍るような夢の舞台。そこではシンガーとして、そしてもちろんエンターテイナーとしてさらなる進化を遂げた、“最高の茅原実里”を聴くことができる。
冨田明宏
歌手活動を再スタートさせた2007年以降、茅原実里は我々にさまざまな“夢”を見せてくれた。日本武道館単独公演、さいたまスーパーアリーナ単独公演を実現させ、世界最大級のアニソンフェスである『アニサマ』のトリを飾るアーティストにまで成長した彼女の姿から、ファンは夢を現実にするための勇気をもらい、日常を生き抜くための活力としてきたことだろう。それだけではない。彼女の手がけてきたこれまでのアルバムは、すべてにおいて綿密なコンセプト・メイキングがなされており、その世界観に浸ることで現実や日常から心を解き放つという、“夢”の世界を提供する存在でもあった。そんな彼女の最新アルバムである『NEO FANTASIA』は、茅原が持っていたエンタメ性をより明快に、よりディープに発展させた作品である。コンセプトはズバリ、「テーマ・パーク」。開演から閉園までを多彩なアトラクションに見立てた楽曲で構成し、ゴージャスで、ドラマティックで、ファンタスティックなエンターテイメントの金字塔を打ち立てた。茅原実里が我々に見せる、まったく新しい夢の世界。彼女にしか生み出せないエンターテイメントの真髄を、思う存分堪能して欲しい。
西原史顕
クリエイターの代弁者であり、最も自由な論客でもあるレビュアーとして、実に矜持が試される一枚だった。茅原実里のアルバム『NEO FANTASIA』は「新たな夢の国」とも訳せる明確なテーマが存在するものの、それを受け止める側に強要していない。ここで歌われている「自己解放」「幸福」などの様々な普遍はテクニックとして語ることもできるし、もっと分かりやすくサウンド面を某遊園地になぞらえて各曲を解説することも可能だ。ただ、『NEO FANTASIA』には確実に「普段は意識しないこと」に我々の目を向けさせる力がある。要はそれと真正面から向き合うかどうかは聴き手次第……というわけだ。具体的に言おう。『NEO FANTASIA』はこれまでの作品よりも〈暗い〉のだ。それは〈むき身〉という言葉にも置き換えられる。これまでも胸襟を開いて自分の感情を歌でファンに伝えてきた茅原実里だが、今作はその色味をより濃くしている。いろいろなベールで装飾はしているものの、自身の〈正負〉を等しく見せているのだ。ならば受け手も、すべてをさらけ出すつもりで作品に臨もうではないか。むき身にはむき身の聴き方を。その先に今まで気がつかなかった「新たな自分」が待っていることは、言うまでもない。
吉田尚記
今回のアルバムのコンセプトは「遊園地」と聞いて、こ、これは大勝負だ!! と思わざるを得ませんでした。例えばジェットコースターに乗った時、あんまり楽しくなかったとして「えー、このジェットコースターは怒りを表現してまして…!」なんて言い訳は出来ないわけで、解釈抜きで、リスナーの感覚を楽しませきらなくちゃいけない、一切の言い訳ができない勝負を挑む、ってことじゃないですか。
で、その勝負の結果!
もう、お分かりでしょう。大・勝・利!!!!
すごいですわ……!プロ、エンターテナー……!!
シルク・ドゥ・ソレイユとか見てると思うのですが、すごいエンターテイメント、と言うのは、「とんでもない身体能力」と「ちょっと狂気に近いやる気」を両方持った人にしか出来ないもの。モチベーションはもちろん、あの「歌声」をもっている茅原さんじゃないと出来ない、そんな超絶ボーカルとそれについていくクリエイティブの極みを味合わされてしまいました!!もー、極楽!!
齋藤光二
久々に見事なコンセプトアルバムを聴きました。
一つ一つの楽曲が独立したアトラクションとして完成していながら、テーマパークの順路のように順番に聴いて行くことで、その世界観全てを堪能できる作りになっています。だから、楽曲を仕切る僅かな無音、そしてその長ささえも、このアルバムにおいては重要な役目を果たしていると思います。
私たちを瞬時に未知の別世界へと連れて行ってくれるのが音楽の力です。このアルバムに収められている楽曲たちは、そうした強い力でリスナーのイマジネーションの扉を無限に開け放ってくれることでしょう。
ぜひ、何度でも訪れてみてください。