澄川龍一
アルバム前半の終わりを告げる物悲しいミディアム。美しいトラッド風味のメロディを生んだのは、かつてI’veで数々の楽曲を生んだ島みやえい子。そして季節の移ろいをあまりに美しく綴った畑 亜貴による歌詞世界、命の芽吹きを表現するようなリッチなストリングスの調べ……と、物語として完璧な仕上がりだ。そしてその語り部としての茅原の歌唱がまた素晴らしく、物語における感情の揺らぎを丁寧に、かつ自然に表現している。シンガーとしての彼女の表情を存分に堪能できる一曲なのだ。
冨田明宏
このフルートとストリングスを基調としたアレンジメントの手触りは、かつて『ルパン三世』シリーズの音楽を手がけた日本ジャズ界の巨匠・大野雄二が80年代に世にお送り出した数々の名アレンジを思い起こさせた。恐らく、ジャズのシャッフルに近いアイリッシュ・トラッド調の6/8のリズムが往年の大野アレンジとリンクしたのだと思うが、この牧歌的なリズムでありながらもどこか都会的な匂いのするアレンジが、ノスタルジックな感情を喚起させてくれる。さて、この楽曲は畑亜貴が作詞を手がけ、作曲は元I’veの島みやえい子、そして近年は藍井エイル楽曲でお馴染みの存在である下川佳代がアレンジを手がけている。ずっとアニソン・シーンを追い続けてきた身として、こんなにも胸踊る布陣はない。雪深い地に立つ城の深窓にて、待ち人が訪れるのを心待ちにしているお姫様。そんな幻想的な情景が思い浮かんでくるこの歌詞も、恋焦がれる純粋な乙女心を暗喩しているのかもしれない。
西原史顕
アルバムの折り返しは真っ白な世界を歌った「真白き城の物語」。いつかどこかにあった、失われた小国を想起してしまうのは妄想の行き過ぎだろうか……。郷愁をそそるゆるやかなメロディ。アンニュイなストリングスとアコースティックギターの響きは中世の景色を感じさせ、コーラスはまるで教会にこだまする天使のささやき。そしてフルートがほんのりとファンタジックな情緒を醸し出している。冬の湖畔、静寂に包まれた無人の古城に少しずつ春が訪れる、優美で繊細な時間。天空から降り注ぐ茅原実里の声によって紡がれた“命の賛歌”は、確実に僕らを異世界へと誘い、次へと繋がる物語へ連れ去っていくのである。
吉田尚記
さっきの戦いは、完全勝利ではなく、痛み分けか、もしくは、怪我はしたけど、なんとか生き残った、そんな戦いだったのではないでしょうか……?そこから命からがら辿り着いた場所で、知恵ある存在、長老か現地の一族か。一流のエンターテイメントは、楽しさとともに、知恵もくれますよね。聞いていると頭が良くなった気が。
齋藤光二
むかしむかし 真っ白な冬のお城に
それはそれは 雪のように美しいお姫さまが
氷の中で 春を待ちながら眠っていました…
そんな語り出しで始まる、絵本のような世界が紡ぎだされます。
純白のページをめくっていくと、紙の仕掛けで出来たお城や白馬が飛び出してきます。
お姫さまの言霊は遠い国にも届き、やがて春の息吹がこの絵本に色彩を与えていきます。
そしてお姫さまは「あなた」と巡り会うのです。